ワーク in the LIFE―ひらめきを育む組織・カルチャーづくり【後編】
パートナーズの皆さまと私たちシックスハンドレッドホールディングスグループが共に研究環境の新しい未来を作っていくために、共に学ぶ場として定期的に開催しているラーニングイベント「PARTNERs LEARNING」。
14回目を迎えた2025年10月16日のイベントでは、元日本マイクロソフト執行役員で、現在は株式会社クロスリバーの代表取締役社長を務める越川慎司さんをお招きし「ワーク in the LIFE―ひらめきを育む組織・カルチャーづくり」をテーマに、イベント前半は越川慎司さんによる単独講演、後半は当社代表 林との対談が行われ、新しい組織づくりについて深い議論が交わされました。
本コラムは、当日イベントに参加できなかった方や、参加後に改めて内容を整理したい方、また今回のテーマに少しでも興味を持っていただいた方を対象に、当日のリアルな対談内容をお届けします。
【前編】越川慎司さんと当社代表 林との対談はこちら
ワーク in the LIFE―ひらめきを育む組織・カルチャーづくり
ゲストの越川慎司さんによる講演をお届けした前編に続き後編では、イベント後半に行われた越川さんと当社代表 林との対談内容と、参加者からの質問について、具体的なエピソードを交えながら深堀りしていきます。
世界の一流ビジネスパーソンは「疲れる前に休む」
林:越川さん、本日はありがとうございます。今日の講演で、まず「最近どう?」はもう使わないようにしようと思いました。つい言ってしまうんですよね。
越川さん:私もめちゃくちゃ使ってました(笑)。
林:いや、共感しかなかったです。 越川さんの著書は全部拝読しましたが、単に「働き方」や「休み方」だけの話ではなく、どちらかというと「あなたはどう生きていきたいのか」という、本質的な問いかけが込められている。特に“休日の過ごし方”というテーマにフォーカスされているのが印象的でした。背景にはやはり、ご自身の経験があるのでしょうか。
越川さん:そうですね。私はもともと“仕事大好き人間”なんです。でもある時「これ以上働いたら3回目の復帰はできない」と感じました。うつ病は過去に2度ほど経験していて、これは働き方を変えなければと。 これまで、育児や親の介護をしながら働く方たちが、すごく苦労しているのを見てきました。日本では今後7年間で、介護を担う人が3000万人になるとも言われています。そうした方々が無理なく働けるようにするには、まず“しっかり休む”ことが必要なんです。
林:なるほど。
越川さん:ある時、世界の一流ビジネスパーソンが言っていた言葉に衝撃を受けました。「疲れてから休むんじゃない。疲れる前に休むんだ」と。それもそうだなと思って。 それから私は「どう働くか」よりも「どう整えるか」に意識を向けるようになったんです。7時間しっかり睡眠を取った上で、何をするかを考える。“準備のための休息”を意識するようになって、結果的に“週休3日制”という今の働き方につながりましたね。
林:まさに、長い人生をスパンで見た“温存戦略”ですね。疲れ切ってから立ち止まるのではなく、前もって体と心を整える。そういう発想が、働き方改革の本質なのかもしれません。 いや、実は越川さんの本を読んで、私は「今日はバトルになるかな」と思っていました(笑)。それは、私が「イノベーションは無駄の中から生まれる」と考えているからです。それが、今の講演を聞いて、うまくつながりました。 つまり、若い時期は“とことんやる”ことも必要で、でも、やりすぎて体を壊してはいけない。やる時期と休む時期をどう切り替えるかが大事なんですよね。
越川さん:そうですね。林さんと私は年齢も近いですが、昔は“言われたことをやる”のが美徳だった時代ですよね。残業していると「頑張ってるな」と褒められて、コーヒーを差し入れてもらえたり(笑)。 でも今は、頑張れば頑張るほど成果が上がる時代じゃない。むしろ「頑張り方を変えないと成果が出ない」時代なんです。上司に言われたことを、ただこなすだけでは評価されません。自分で考え、動く力が問われている。 だからこそ、私は“休むことも仕事の一部”として、どうすればパフォーマンスが上がるのかを実験しています。働き方を整えることは単なる制度改革ではなく、思考と生き方の変革なんです。
20〜30代の働き方に必要な“信頼ツムツム”
林:私も常に「どうやって時間と精神の余白をつくるか」を考えているのですが、入社して1〜3年目くらいの若い社員たちは、そもそも“何が無駄なのか”が分からない状態なんですよね。自分で時間をコントロールすることもまだ難しい。そういう立場の人たちは、いったいどう行動すればいいのでしょうか。
越川さん:そうですね。今の20代、30代は本当にモヤモヤしている人が多い。それを解消するために転職する人も多いのですが、それは少し違うかなと。私が勧めているのは、まず「仕事=信頼を積み上げるゲーム」だと考えることです。いわば“信頼ツムツム”ですね。 20代で活躍できるかどうかは、正直なところ“環境”と“上司”による部分が大きい。つまり信頼を積み上げていくことで「この人に任せよう」という抜擢が生まれる。日本企業では“就社”という言葉の通り、会社に入ってからどこに配属されるか分からない。いわゆる“配属ガチャ”のような状況です。だからこそ、どんな部署にいても、まずは信頼を積むことが大事なんです。
林:信頼ツムツム、分かりやすいですね。
越川さん:トップ5%の社員ほど、実は“嫌がられる仕事”を率先してやっています。そうした地味な仕事ほど、信頼を積むチャンス順なんですよ。やがて信頼が積み上がると、それが“信用”に変わる。すると「お前の思うようにやれ」と任せてもらえるようになる。それが最も時間生産性が高く、自分の能力を伸ばせる瞬間なんです。
林:なるほど。
越川さん:なので、1週間を振り返って「何が無駄だったか」ではなく「どの仕事で信頼を得られたか」という軸で考えて、そうじゃない仕事は止めるべきだと。 例えば、日本で作られるPowerPointのうち、23%は”忖度ページ”なんです。つまり、上司もお客様も求めていないのに「あったほうがいいかも」と思って作っている。そして残念ながら、その8割は誰にも見られないまま終わっています。
林:それはまさに無駄ですね。
越川さん:さらに、残業の23%は“差し戻し対応”が原因です。これも、上司に「この方向で合っていますか?」をたった1分で聞くだけで、差し戻しを74%も減らせるというデータがあります。 信頼を積み上げながら「これをやったら評価された」「これは信頼を得られなかった」と自分で分析していく。そうして信頼の得られる方向に時間を使っていく。これが、20代・30代がやるべき信頼ツムツムです。
林:欧米でも、そういった考え方は共通しているんでしょうか。
越川さん:私はヨーロッパと北米でしか働いたことがないのですが、特にマイクロソフトは“超階層社会”なんです。例えばマイクロソフト時代は、上司の奥さんの誕生日まで把握しているような文化でした(笑)。それくらい上司との信頼関係が重要なんです。毎年下位の20%は入れ替わる世界ですから、“気に入られる力”も含めて信頼が仕事を左右します。
林:そういう意味では、日本と似ている部分もありますね。
人間がAIに勝てるのは、ひらめきやクリエイティビティ
林:ただ、若いうちに「この仕事は成果が出なかったから無駄だな」とか、「先輩に頼まれたけど効率が悪そうだからやめておこう」と判断してしまうと、合理的ではあるけれど、信頼や共感は生まれにくいように思います。 最近は“コスパ”とか“タイパ”という言葉がすっかり定着していて、先輩との飲み会に誘われても「時間がもったいないので行きません」となってしまう。そうなると、人とのつながりや信頼関係を築くチャンスを自分で閉ざしてしまう気がするんです。
越川さん:その通りだと思います。コスパ・タイパという言葉を使いすぎると、どうしても“効率主義”に偏りすぎてしまうんですよね。 ただ、私が見てきた中で、組織の成長にも個人の成長にもつなげている人たちは、効率だけではなく「効率と効果の両方」を考えています。例えば、Excelの作業時間をAIで短縮して、60分が30分になったら確かに“タイパが良い”状態ですよね。けれど、本当に考えるべきは「そもそも、このExcelが必要なのか?」ということなんです。実際にそう考えられる方が、大きな成果を残している。
林:なるほど。
越川さん:もちろん、手を抜くという意味ではありません。ただ、冷静に振り返る必要はあります。皆さんが週報や中間報告書を作ったからといって、本当に評価されているのか。今や日本で作られている週報の4割はAIが自動生成しているとも言われています。だったら、その時間を企画書やデザインなど、より「効果=評価」のある仕事に使った方がいい。
林:効率化して空いた時間を休暇に使うというのも、その“効果”の一部なんですね。最近は“リベラルアーツ”という言葉をよく耳にしますが、教養や感性の部分に時間を使うことも、長い目で見れば大きな効果につながるように思います。要は”余白”にフォーカスせよと。
越川さん:今日の会場でも、設計や総務などのオフィス関連、研究開発といった業務を担う方々が多いと思います。皆さん、普段は会議や資料作成、分析などで“左脳”を多く使っていますよね。 でも、左脳でやっている仕事は、どんどんAIに代替されていきます。今日のPowerPointも、もうAIが自動で作る時代です。これから皆さんの能力が評価されるのは、クリエイティビティやひらめき、創造性といった“右脳”の使い方だと思うんですよ。
林:やはりそうですよね。
越川さん:左脳ばかり使っていると、どうしても右脳が鈍くなる。だからこそ、意識的に“左脳を休ませる時間”が必要なんです。 私は休日に映画館や美術館を巡ったり、あとオートバイにも乗ります。以前は「バイクって不良の乗り物」と思っていたんですが(笑)、実際に世界の一流ビジネスパーソンが、ハーレーで走っているのを見て刺激を受けて。年に一度、北海道をバイクで一周しますが、この際には1日5時間以上、スマホを一切触らない時間ができる。こうした時間の方が、信じられないほどアイデアが湧いてくるんですよ。出版企画書が3本くらい一気に書けてしまうこともあります。
林:それはすごい効果だ。
越川さん:人間がAIに勝てる部分は、こういったひらめきやクリエイティビティだと実感しました。私自身、あえてやめてみたり、左の脳を使わず右の脳を活性化させたりといった、挑戦ではなく「実験」を休日にやるっていうのは、すごく良かったなと思っています。
林:自分の中に、新しい刺激を“植え込む”ような感覚ですね。
小さな”実験”の積み重ねが、働きがいを生む
林:越川さんの著書の中で「挑戦ではなく、実験をする」という言葉が特に好きなんです。成長している企業ほど、決して“挑戦”という言葉を使わない。挑戦にはリスクが伴うし、失敗すればダメージも大きい。だからこそ彼らは「とりあえずやってみよう」と“実験”するんですよね。ダメだったらやめればいいし、ピボットしてもいい。そこにもっとフォーカスした、働き方や生き方に更新していくのが大切だと思います。
越川さん:私も30年仕事をしてきて「人の命を奪うようなこと以外は、失敗じゃない」と感じています。そもそも失敗の先にしか成功はない。失敗を避けていたら、何も成し遂げられません。 ただ、多くの人が“失敗を恐れる”のは、人事評価制度の影響が大きいと思います。昔は「失敗=マイナス評価」という文化がありました。でも実際に調べてみると「失敗したら評価が下がる」と就業規則に明記している企業は、全体のわずか12%に過ぎない。
林:なるほど。
越川さん:つまり、失敗することが不正解ではなく「何もしないこと」の方が不正解なんです。特に若い人は失敗が怖いから挑戦しない傾向にありますが、“実験”ならもっと気軽にできる。学びがあればいい。最初の一歩を踏み出すために、挑戦ではなく”実験”にしていくことが、信頼ツムツムにも行動進化にも大切だと思っています。
林:確かにそうですね。「探索と進化」ってよく言いますけど、例えば私たちは、チョコレートやコーヒーをつくって販売するという、少し異色の事業も展開しています。正直、大成功という感じではないんですよ(笑)。でも、チョコレートブランドを立ち上げたことで、それ以外の製品にも“クラフト感”を感じてもらえるなど、相乗効果が生まれています。やってみて本当に良かったと思っていますね。
越川さん:えっ、そうだったんですか?(笑)。先ほどいただいたチョコレート、本当においしかったですよ。私はこの近くのカフェでよく仕事をしているんですが、御社の近くを通るたびに「チョコレート屋さんが入ってるビルなのか」と思っていました。あまり堅苦しくなくカジュアルなイメージがあって、ブランディングの成功例ですよね。
林:ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。私たちはもともとBtoBの会社でしたが、BtoC事業によって初めて見えたことがたくさんあって。量から質の時代になる中で、コモディティ化される前の一手といった感じで、今後もやっていきたいですね。
越川さん:私も執筆活動を通して同じことを感じます。実は、私はもともと文章を書くのが大の苦手だったんです。マイクロソフト時代、役員会議が急にキャンセルになった時、たまたま受けたインタビューがきっかけでライターさんと出会い、その方が勝手に企画書を講談社に持ち込んでしまった(笑)。そこから1年半かけて本を出したのが、私の著者としてのスタートです。気づけば、今では32冊の本を出しています。
林:そんな経緯があったんですね。
越川さん:キャリアのきっかけって“偶然の出会い”だと思うんですよ。私は会議がキャンセルになることで“余白”が生まれましたが、こういった余白あるからこそアンテナが立つ。チャンスの8割は“人が運んでくる”と言われています。だからこそ、時間と心の余裕を持つことが重要です。林さんのように「BtoC事業をやったらブランディングが変わるかも」といった実験が加速する。それが偶然を必然にさせるポイントなのかなと。
林:本当にそうですね。小さな実験を重ねて、成功も失敗も含めて学んでいく。それが最終的に、一人ひとりの“やりがい”につながっていくのかもしれませんね。
リーダーは会議ではなく「会話」で人を育てる
越川さん:私たちは、その“やりがい”を上げる会社でもあります。「やりがい=働きがい」として支援先の取り組みに接すると、面白い傾向が見えてきます。 多くの企業が「働きやすさ」を追求しますが、離職率はほとんど変わりません。働きやすさって、制度やハードといった“不平不満や不快の解消”になりがちで、実際にそれらを改善しても、翌年の働きがいスコアはせいぜい0.5ポイント程度しか上がらないんですよ。 反対に、嬉しい感情や新しい経験を増やす「働きがい」を高めると、離職率は45%も改善することが分かりました。
林:私たちも建物や空間をつくっています。ウェルビーイングな環境はもはや必然になりましたが、結局のところ、文化やコミュニティ、そして人が変わらないと、せっかくの空間も活かされない。今のお話は、まさに私たちが対峙している課題です。
越川さん:日本で「働きがいがある」と手を挙げる人は、22%しかいません。 AI分析の結果、働きがいには3つの共通点がありました。キーワードは、承認・達成・自由です。 まず承認は「ありがとう」「認められた」という実感です。ただし承認には達成が必要で、その達成には目標が要る。ところが営業以外は、今日の目標が具体化されていないことが多い。だからこそ、会議ではなく“会話”の中で、上司と部下が共同の行動目標を一緒につくるべきなんです。
林:私たちに必要なのは会議ではなく、会話だと。
越川さん:おすすめは自販機の前ですね。コーヒーを飲みながら「今月はこれをやります」と口にする。上司が「いいね」と返せば、それは共通目標になります。達成すれば必ず承認される。この承認が積み上がると、次は自由が与えられるんですよ。 研究や設計の方ほど自由を求めますが、自由は責任と表裏一体です。だからこそ、達成→承認→自由の順で獲得していく。これが、働きがいを得るベストな方法だと分かりました。
林:会話の中で、どんな小さな仕事でも「会社の売上にどう貢献するのか」を明確にするとか、ジョブディスクリプションのような形でちゃんとクリアにして「じゃあ一緒にやろう」と背中を押してあげると。
越川さん:そうですね。人事制度を一気に変えるのは難しくても「評価軸の見える化」はできる。上司の判断は7割が感情なので、皆さんは対面での会話頻度を上げて、プロセスの“見せる化”を進めるべきです。日本の文化として謙虚さは美徳ですが、うまくいっていないものこそ自分から見せていかないと。管理職の経験からしても、先に言てもらいたい。働きがいや生産性を高める上でも、この”見える化”や”見せる化”は本当に重要です。
林:その時の声がけで、つい「最近どう?」と言ってしまいがちです。ただ、自分に置き換えて想像しても、この声かけでは「うまくいっていないこと」は話せませんね。「絶好調です」とか言ってしまいそうで。
越川さん:それはもう、完全に“興味がない”感じですね。ちなみに、トップ5%のリーダーの声かけを調べると、まず自分から自己開示しています。「週末はオンラインでサッカーを見ていたよ。君はどう過ごした?」といったように、先に自分を開いて相手を促す。自分が腹を割るから、相手も腹を割るんですね。
林:仕事より“人”にフォーカスして、「週末は何してた?」と尋ねるのですね。
越川さん:そうなんですよ。モチベーションは内発的動機づけなので、あなたに興味があるという意思を示さなければなりません。人が成長するもう1つの要素は、期待をかけることです。「来週の稟議を一緒に通したい。進捗はどう?」と具体的に尋ねると、すごくテンションが上がって頑張る。達成すると承認されて、また頑張る。人を育成したいのであれば、まず興味関心を持ち、勇気を持って期待をかけることが重要です。
林:私も「あなたならできるよ」と言いますが、つい合間にチェックを入れてしまいがちです。相手も、私に見せる資料は完璧に仕上げようとする。日本人らしい反応かもしれません。
越川さん:努力は尊い。ただ、今は人手不足で労働時間が延びがちなので、これ以上“頑張る”のではなく、“頑張り方を変える”必要があります。例えば、週報はそこそこに終わらせて、企画書づくりに全精力を注ぐ。かけた時間は同じなので、評価は変えていく必要があります。
林:そうやって生まれた“余白”に、全集中していくと。
越川さん:私が管理職で未熟だった頃は、部下を鼓舞しようとして「頑張れ」と言っていましたが、今では精神疾患の有無を問わずNGです。一番効果的なのは「大丈夫」と言ってあげること。「全権委任しているし期待もしてる。頑張り方を変えれば、もっと大丈夫だよ」と伝える。20代の方は涙が出るほど救われることがあります。頑張れではなく大丈夫と言い換えるのは、モチベーションが低い人ほど効果があって、明日からでもすぐ実践できますよ。
林:「失敗しても私が拾うから、大丈夫だよ」と示すことが、心理的安全性につながるのですね。
越川さん:ええ。失敗で終わらせず、どう乗り越えるか。有名大学や大手企業より「逆境と挫折をどう越えたか」の数がキャリアになるんですよ。乗り越える経験を得られるよう、坂道で押し上げるように「大丈夫」と支える。個が伸びれば、チームも伸びます。
林:まさに”実験”の繰り返しですね。私も背中を押すリーダーでありたいです。
越川さん:リーダーは大変です。ハラスメントの境界も難しい。だからこそ、言葉の実験をしてみてください。「最近どう?」ではなく「大丈夫?」と声をかける。驚くほど反応が変わります。
林:ぜひ実践してみます。
越川さん:それから、フィードバックは「グッド」と「もっと」に切り替える。ダメ出しで人は伸びません。良い点をまず伝え「これをやるともっと良くなる」といった具合に。遅刻を指摘するにも「商談での話し方良かったよ。時間通りに来たらもっと良くなるよ。」と言い換える。 自信が乏しい若手が増えているので、まず「大丈夫」と声をかけて、任せて、達成したら承認してハイタッチ。もう一度任せる。このサイクルを、ぐっと我慢して回せるかどうかが、今のリーダーの腕の見せどころです。
林:リーダーには、我慢に加えてポジティブシンキングも要りますね。
越川さん:そうですね。セキュリティやコンプライアンスの管理は必要ですが、人と組織が成長する上では“過去”ではなく、“未来”に向けてポジティブに考えないと。うまくいけば続けて、だめなら元に戻す。それで良いと思うので、ぜひリーダー自身も実験を繰り返してみてください。
質疑応答
<ここからは、参加者からの質問にお応えいただきます>
Q1:部下に「過剰な気遣い」させていないか、管理職自身が気づくための工夫はありますか。
越川さん:とても良い質問です。過剰な気遣いは数値で見えにくいですが、実は資料を見ると一目瞭然です。上司の意図を過剰に忖度して不要なページを作っているのが、典型的なサイン。これを防ぐには「フィードフォワード」というアクションがおすすめです。フィードバックは完成後の評価ですが、それでは遅い。 そこで、進捗20%の段階でシェアするルールを作る。PowerPointなら2枚、Wordなら2ページを目安に「方向性は合っていますか?」と確認してもらうんです。これを1万2000人規模で導入したところ、差し戻しが74%減りました。フィードフォワードは、すごく効果的ですよ。
林:なるほど。途中で軽く”ジャブを入れる”感じですね。
越川さん:その通りです。プロセスの段階で上司を巻き込み、部下と一緒に仕上げていく。これがまさに「共創」の考え方ですね。
Q2:これまで関わられた「働き方改革」の現場で、失敗から学んだ印象的な事例があれば教えてください。
越川さん:少し上からの言い方に聞こえたら恐縮ですが、働き方改革に失敗する企業には明確な共通点があります。まず「意識を変えて行動を変えよう」とするパターン。これはほとんどうまくいきません。意識は5年10年かかっても変わらない。成功している企業は、逆に“行動を変えることで意識が変わる”ようにしています。例えば「1回だけ、60分会議を45分にしてみよう」と提案してみる。1回だけなら抵抗のある人も動いてくれるし「意外に良かった」と気づく。その体験が意識の変化につながるんです。
林:なるほど。
越川さん:また、働き方改革が失敗するもう1つの理由は「目的が曖昧なまま進めること」です。働き方改革はあくまで“手段”であって、“目的”を明確にする必要があります。私は「働き方改革」より「稼ぎ方改革」と呼んでいます。限られた時間と人員で、利益と働きがいを両立させる。その“成功の定義”が見えている企業は、成功確率が3.5倍高いということも分かっています。
林:私も仕事上で、人の行動を促すにはまず環境を変えることが大切だと感じています。そういった意味でも、共創という考え方がベースになるのですね。
越川さん:おっしゃる通りです。さらに成功している企業では「ヘルプアザーズ制度(Help Others)」という評価項目を設けています。定量的に、自分の仕事だけで90点、残り10点は“他人を助けた行動”で加点される仕組みです。ジョブディスクリプションだけだと、外資系企業でも足の引っ張り合いになるので。その企業でもまだ2年しか経っていませんが、目に見えて効果が出始めています。
Q3:働き方改革の推進によって、管理職の負担が増えたり「管理職になりたくない」と考える若手社員が増えたりしていると聞きます。これについてどう思われますか。
越川さん:本当にそうなんです。現在、管理職の労働時間は2019年比で17%増えています。部下を早く帰らせる必要があるので。また、リクルートワークスの調査では、一般社員の7割以上が「管理職になりたくない」と答えています。
林:本当によく耳にする話ですよね。
越川さん:とはいえ、私はキャリアとして「管理職は経験すべき」だと思っています。なぜなら、キャリアの本質は「選択肢を増やすこと」だからです。プレーヤー、設計、マーケティング、そして管理職など、いろんな分野を経験しておくと、自分で道を選べるようになる。自己選択権が増えることこそが「働きがい」に直結します。私自身も管理職は正直しんどかったですが、チームで成果を上げた時の喜びは、個人で達成した時以上でした。管理職やって、本当に良かったなと思っています。
林:確かに、管理職って「管理する人」ではなく、チームの中心で楽しいことを作っていく存在ですよね。私が経験した、文化祭の実行委員長のような感覚で。
越川さん:まさにそうです。リーダーは“役割”であり、リーダーシップは“心構え”です。入社1年目だとしても、リーダーシップは持てる。 そして、自分のキャリアを自分でデザインする「キャリアオーナーシップ」を意識することが大切です。会社よりも自分の人生のほうが長いのですから、自分が何のために働くのか、どう生きたいのかを考える。そこに管理職という選択肢を入れておくことは、決して損ではありません。
林:何を大切に生きていくか、デザインすることが大事なんですね。
越川さん:ただ、個別最適の積み上げは全体最適にはなりません。全員の働きがいを実現するのは不可能で、人によってマネジメントのスタイルは変わってきます。共感・共創の一環として、「働きがいを論じ合える関係性の構築」を、ぜひ職場で実践してほしいですね。
Q4:多くの企業を見てこられた中で、「ひらめき」や「創造性」を引き出すための仕掛けや取り組み事例を教えてください。
越川さん:ひらめきを生む鍵は「ブレインストーミング」にあると思っています。それも“良いアイデアを出すこと”ではなく、“たくさんのアイデアを出すこと”を目的にする。「なんでもいいから出してみよう」で始める方がうまくいきます。例えば「千代田区の人口を20%増やすには?」という議題で、最初に仕切る人が「ディズニーランドを誘致する」といった突飛な意見を最初に出すと、後からいいアイデアが出てきます。また、アイデア出しは能力ではなく、”慣れ”です。
林:確かに、最初から“良いアイデア”を求められると、誰も話せなくなりますね。
越川さん:そしてもう一つ大事なのは「ホワイトボード文化」です。成果を出し続けているチームは、ホワイトボードの使用頻度が高い。決定には感情ではなく、論理が必要です。アイデアを可視化して、全員で評価軸を共有しながら整理すると結論を出しやすい。
林:確かに、見える化する場があると「アイデアを出そうよ」といったアファメーションにもなりますね。
越川さん:白い壁とペンがあると、人間は本能的に書きたくなるものです。5歳児が落書きするように、固定概念なく気軽に書ける場所が、新たな発想を生みます。
Q5:アートがAIを超える分野のひとつだとお話しされていましたが、実際にアートを学ぶ中で、本業に活かせたと感じる事例があれば教えてください。
越川さん:ずばり「0から1を生み出す力」です。AIは既存のデータベースをもとに“予測”はできますが、経験のないことは創造できない。生成AIでは、“結果”ではなく“プロンプトをどう書くか”が重要です。このプロンプトを生み出す想像力や妄想力こそが人間の強みであり、それを鍛えるのがアートの世界だと思います。
林:私も美大出身で、課題に取り組む際には「新規性はあるか」「社会に問いを投げかけているか」を常に意識していました。実際にうちの会社でも、製品開発では売れないと分かっているものもたくさん作っています。
越川さん:アートの本質は失敗の連続にありますから、何度もデッサンを描き直すことが大事です。例えば、ビジネスでは成功確率が5%しかないものには手を出しませんが、結果を出す人はそれを20回挑戦して、成功確率を74%まで高めていく。なるべく多く仮説設定していく力というのは、これからのAI時代には必須になってきますね。
林:1回で完璧な答えを出そうとしない方がいいんですね。人間同士のコミュニケーションでも、”ジャブ打ち”は大事なのかもしれません。
越川さん:そうですね。AIは「壁打ち相手」としては優秀ですが、ひらめきは生まれない。意外に経験や考え方の違う人間同士の方が、新しい発想が生まれる。それをぶつけ合うのが重要なんです。
林:AIは常識しか言いませんから。新しい価値はアート思考から出てくるんですね。
越川さん:まさにその通りです。AIを単なる検索ツールではなく、パートナーとして活用する企業は成功しています。実際、うちの会社ではAIに社員番号を与えて「AIヨシダさん」と呼んでいます(笑)。人手不足の時代ですので。今後はAI活用で、企業も2極化していくと思います。
Q6:テクノロジーやAIの進化が進む中で、人が働く意味やチームで働く意義は今後どのように変わっていくとお考えですか。
越川さん:AIがどれだけ進化しても「0から1を生み出す力」や「感情を読み取る力」は人間にしかできません。『サピエンス全史』という本にもあるように、人類が生き残ってきたのは“観察力”に加えて“チームワーク”があったからです。つまり、強みと弱みを掛け合わせながら周囲と補い合う力が、人間ならではの能力なんですね。 したがって、経費精算などの単純業務はAIに任せるべきです。私たちは、AIができることを常にキャッチアップして、人間の強みである「妄想力」「観察力」「協働力」の3つを見出して実験していく。今すべきことは、これなんですよ。
林:妄想って、1人より「こんなことを考えてるんだけど」と仲間と語る方が楽しいですよね。妄想は無限大ですから。
越川さん:そう、妄想はポジティブにやるべきなんです。ワクワクしながら妄想することで行動が継続できる。これはAIにはできません。また、今まで「AIが仕事を奪う」と言われてきましたが、もう止めるべきです。AIは敵ではなくパートナーです。スマホやパソコンが登場した時も、職種転換は起きましたが仕事は減らなかった。私は本気で「週休3日」が当たり前になると思っています。AIの力を利用すれば可能です。人間は、ワークとライフを両方考えるところに、価値発揮できると思っています。
林:私たちって「遊び方」や「人生の輝かせ方」が下手なのかもしれませんね。
越川さん:本当にそうですね。私も昔は土日も働くのが当たり前でした。そんな時、アメリカ人の上司に「野球はスリーアウトで交代だぞ。お前はフォーアウト以上やってる」と言われてハッとしたんです。仕事も“ルール内で全力を出す”ことが大事で、土日は人生のための時間だと。 その時に彼と一緒にハーレーに乗ったときの鼓動は、今でもよく覚えていますよ。
林:いい話ですね。人生の輝かせ方を、もっと長いスパンで考えるべきだと感じますね。
越川さん:まさに「自分軸キャリア」は“ロングゲーム”です。これからは100年時代、いや120歳まで生きるかもしれない。そんな長い人生の中で、ワークとライフをどう充実させるか。 私は、逆境と挫折を乗り越えた経験が人類に役立つものだと考えていますが、それらをどうやって積み上げていくのか。それが今の私たちに求められているのだと思います。
最後に
林:もう今日は本当に、共感しかありませんでした。最初は越川さんと”果たし合い“になるのかなと思っていたんですが、対談の中でそれこそ何度も頷いていました。
私たちの世代は、かつて「24時間働けますか♬」というCMが普通に流れていた時代です。当時は“働けば売り上げも上がる”という価値観だった。でも今は、量ではなく“質”が問われる時代です。同時に、働き方を考えていく中では、“ライフ”にも光を当てるべきだと強く感じました。
あくまでライフの中にワークがあるので、そのハーモニーを意識して、人生そのものをどう輝かせるのか。今日は改めて、そこを真剣に考えるきっかけをいただきました。
早速、明日から実践してみます。まず「最近どう?」は封印ですね(笑)。
※ Microsoft、Excel、PowerPoint、Teams、Wordは、米国 Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。 ※ その他、記載されている会社名、製品名は、各社の登録商標または商標です。


