ECモーターによる安全キャビネットの制御とその利点

The Advantages of Using an Electronically Commutated Motor (ECM) in Biosafety Cabinets

By Jim Hunter, Senior Project Engineer - HEPA Filtered Products Group, and Mike Rouse, Test Technician, Labconco Corporation

クラスⅡ安全キャビネット(セーフティーキャビネット)はHEPAフィルター技術の進展を受け、1960年代初めに開発された。その当時はPSCタイプのモーターがブロワーに使用されていた。ACモーターの1種であるPSCモーターはHEPAフィルターの捕集状態に合わせてスピードを調整できる比較的安価な動力源であった。
 
PSCモーターは誘導型として知られている。 モーター内部は、固定子巻線(固定子)が鉄または鋼からなる回転部分(回転子)を取り囲んでいる。 電流が固定子を通過すると、回転子に磁場が誘起され、固定子内の磁場の切り替わりに反応して回転する。磁場が回転子内に誘導されなければならず、回転子は固定子で生成される磁場に常に遅れるためPSCモーターは非同期式である。この非同期運転の結果、回転子内の磁場が常に変化するように誘導するため、PSCモーターは効率が悪く、大きな発熱を伴う。電圧を低下させることによってブロワーの速度を制御しようとすると、PSCモーターの運転効率が低下することになる。
 
ACモーターより効率的なモーターとしてDCモーターがある。一般的なDCモーターではACモーターでの固定子の代わりに永久磁石が用いられる。回転子は固定子の周りにいくつか電線が巻かれた状態になっている。モーターに電流が流れると、回転子の巻線が磁場を形成し永久磁石の磁場により回転する。整流子に接触しているブラシは、電流、ひいては回転子内の磁場が巻線の中で徐々に切り替わり、回転子が回転し続けるようになっている。
 
ブラシ付きDCモーターの最大の欠点は、ブラシと整流子が互いに摩耗し、最終的にモーターの故障を引き起こすことである。1970年代~80年代のマイクロプロセッサーの性能向上に伴い、さらに効率的なタイプのDCモーターである、ECモーター(Electronically Commutated Motor)が開発された [図1] 。
 

[図1] ECモーター

 

 
ECモーターでは磁石と巻線スイッチの位置が変わり、永久磁石は回転子に、巻線は回転子の周りに配置されている。マイクロプロセッサーは固定子の磁場を精密に制御するため、回転子と常に同期する。結果としてECモーターはPSCモーターと比較して50%以上効率的で、放熱も圧倒的に少ない [表1]。シンプルで堅牢なつくりのためPSCと比べて安定性と寿命が圧倒的に優れている。
 

[表1] W1,300mm安全キャビネットでの比較

  ECモーター PSCモーター
稼働時消費電力 290 Watt 582 Watt
熱負荷 990 BTU/h 1986 BTU/h
平均寿命 >50,000 h 10,000-15,000 h

 
モーターをマイクロプロセッサーで制御する利点は大きい。ECモーターは外部のセンサーやコントローラーなしでモーターのスピードや出力(回転力)を計測、調整することが可能である。これはPSCモーターでは成しえない機能であった。また、モーターは、機器のパフォーマンスを即座にフィードバックするなど、モーターの状態を伝えることができる。ECモーターのマイクロプロセッサーとメモリーにより、安全キャビネットのメーカーは、モーター速度、回転力、回転方向を制御するプログラムを開発し、エンコードすることができるようになった。ECモーターメーカーにより開発されたソフトウェア及びファームウェアであるRegal-Beloit™を用いることにより、HEPAフィルターの目詰まりが進行するにつれ圧力が増加することに対し、モーター/ブロワーが一定量の空気を送り続けることが可能になった。
 


ECモーターはどのように一定風量を維持するのか

ECモーターが一定風量を維持する仕組み:
一定風量(赤)曲線は、安全キャビネットが一定の風量を維持するために必要なモーターのトルクと速度を示している。この曲線は、解析・測定のプロセスで生み出される一連の定数としてモーターにプログラムされている。緑色の曲線は、安全キャビネットに使用される新品のフィルターの圧力を表している。 HEPAフィルターが物質を捕集するにつれて、圧力は青い曲線に近づいていく。

安全キャビネットは、フィルターが目詰まりするまで、点「A」で安定して動作する。目詰まりが進行するにつれて、圧力の増加及び風量が減少した結果、ブロワーの速度は点「B」まで上昇する。このスピードの上昇は、あらゆるタイプのモーターで発生し、氷上やスリップで牽引力を失う自動車のタイヤに似ている。
PSCモーターとは異なり、モーター速度は点「B」に留まり、ECモーターは自身の速度と回転力を確認する。 点「B」は一定風量曲線上にないため、赤線上に到達するまでトルクと速度を点「C」、「D」及び最終的に「E」に増加させる。 

 


モーターの設定

安全キャビネットのモーター/ブロワーが一定風量を送風するように設定する手法はLabconco社が特許出願中の技術である。設定のプロセスは測定・解析、検証、プログラミングから構成される。
 

測定・解析

安全キャビネットの測定・解析プロセスは、Labconco社によって開発された独自のもので、各サイズのキャビネット固有のものである。 一定の風量を供給するようにモーターをプログラムするため、様々な条件下でのトルクと速度の条件を記録する。トルク、速度、及び気流データはRegal-Beloit™ソフトウェアによって処理することにより、独自のモーター/ブロワー定数を生成する。
 

検証

モーター/ブロワー定数を生産モデルの安全キャビネットのモーターにプログラミングし、正確性の検証を行う。安全キャビネットの給気及び排気は名目値に調整され、圧力損失の異なる特殊なフィルターを装着することで、フィルターの目詰まりが進行した状態をシミュレートする。Labconco社独自の測定・解析プロセスの精度が向上しことで、[図2]に示すように、HEPAフィルターの目詰まりが進行し、圧力損失が2倍になっても、風量の誤差は1〜2%程度である。
 

 [図2]

 

プログラミング

モーター/ブロワー定数の正確性が証明されれば、安全キャビネットで使用される全てのモーターに適切なタイプのソフトウェアがプログラムされる。安全キャビネットの大きさごとにプログラムが異なるため、組み立て時に各モーターを確認し、最終テストでモーター/ブロワー性能を検証することで、正しいソフトウェアが搭載されているかを確認する。
 

最後に

ECモーターはPSCモーターと比べ多くの利点がある。50%以上も省エネであることに加え、その堅牢性も相まってPSCモーターよりも約3倍長い寿命がある。ECモーターは稼働による発熱が少ないため、安全キャビネットを設置する環境における温度の上昇を最小限に抑え、周囲の環境に与える影響も少ない。 マイクロプロセッサーによるモーターのトルク及び速度の検出と制御により、HEPAフィルターの圧力損失が変化しても、一定の風量を維持することを実現した。
 

参照

  • How the GE ECMTM Makes Airflow Constant. General Electric Corporation 2000.
  • ECM 2.3 Technical Presentation. General Electric Corporation 2000.
  • GE ECM by Regal-Beloit. Dr. Roger Becerra, Tim Neal. Regal-Beloit Corporation, Terra Haute, IN.

 
*本記事はLabconco Corporation.による記事を要約したものであり、日本国内での法規・基準などと異なる場合があります。原文はこちらよりご確認ください

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