安全キャビネットのヒューマンファクター設計

Biosafety cabinet human factors design

By Brian Garrett, LEED Green Associate, Product Manager, Labconco

どんな仕事にも危険はつきもので、その大部分は人間と作業環境がどのように相互に作用しているかに起因するものである。それは実験室でも例外ではないが、潜在的な危険や怪我を作業場のレイアウトや構成と関連付ける研究者は多くない。
 
ヒューマンファクター(人間や組織・機械・設備等で構成されるシステムが、安全かつ経済的に動作・運用できるために考慮しなければならない人間側の要因のこと。一言でいえば「人的要因」)の分野は、より一般的には人間工学として知られているが、人間が物理的に周囲の環境と相互に作用する方法を理解するための学際的なアプローチである。この分野の研究は、システムがより効率的に、したがってより安全に人間と調和する方法を改善することを目指している。
 

安全キャビネット(セーフティーキャビネット)のリスク

微生物学で用いられる道具や手順は、研究者を無限の世界に引き込もうとする。微生物学などに用いられる設備機器は長時間使用しても苦痛にならないような快適性と、その繊細な作業を実現するための細かな配慮が求められる。我々のような研究設備メーカーには、この2つを両立させるノウハウと技術力が求められるのである。特にピペット操作や顕微鏡検査など、人間工学的なリスクの大きな作業を伴う場合には、さらに慎重を期さなくてはならない。
 
安全キャビネットの使用に伴う一般的なリスクには、以下のようなものがある:
 

悪い作業姿勢 長時間にわたり頭を前にかがめる、腕を上げたり伸ばしたりする、同じ姿勢が長時間にわたり続く。
上肢障害のリスク 反復的な動作、手首や腕の不自然な姿勢、力の入った動作。
(グリップをつまむ動作を含む)
環境

スペースの制約、照明の温度、振動など。

負荷 鋭利なもの、熱いもの、冷たいもの、または有毒あるいは危険なものを扱う作業。
その他の要因 作業をより過酷にする可能性がある保護具。
疲労 上記にあげた複数のリスク因子の蓄積。
 


ほとんどの安全キャビネットでの作業は、反復性ひずみ損傷(RSI)のリスクが高くなる可能性がある。実験作業に伴う後天的なRSIには、多くの場合、以下のようなものがある:

  • 腱炎および腱鞘炎
  • 腱板腱膜炎
  • 胸郭出口症候群(TOS)
  • 手根管症候群(CTS)
  • 手首神経節嚢胞
  • 腰の怪我

 

参考動画(英語)


  
 

安全キャビネットの設計基準

欧米における安全キャビネットの規格としては、National Sanitation Foundation (NSF) の規格であるNSF/ANSI Standard 49 や欧州連合 (EU) の規格であるEN 12469などがあり、これらに基づいて設計、試験、リストアップされている必要がある。これらの規格にて認証されている安全キャビネットについては、適切に維持管理され動作している限り、バイオハザードを扱う際の安全が確保されているということになる。安全キャビネットのヒューマンファクター設計と快適性は作業者の生産性と安全性に直接影響を与える大きな要素となる。
「作業者にあわせてタスク、機器、作業空間を設計することは、ヒューマンエラー、事故、健康障害のリスク低減につながる。人間工学の原則を遵守し損なえば、個人や組織全体に深刻な結果をもたらす可能性がある。人間工学を効果的に活用することで、仕事がより安全で、より健康的で、より生産性の高いものになる。」と、労働安全衛生の担当者は語る。
 
しかしながら、ヒューマンファクターや作業者の快適さに関する要求事項は定められていないのが現状である。そこで我々のような安全キャビネットメーカーは、快適さの向上を通じて安全性を高める製品を設計することで差別化を図ろうと努力してきた。メーカーにより様々なアプローチがあるため、安全キャビネットの導入を検討する際には、そのような点を評価・比較検討する必要がある。
 

LABCONCOの安全キャビネットに込められた想い

我々の安全キャビネットPurifier Logic®+シリーズの設計チームは、市場に出回っているすべての安全キャビネットを徹底的に調査し、業界全体で見られる最高の機能を探し出し、設計し、活用することを目指した。その結果、もっとも広範なヒューマンファクターのパッケージであるInclination™テクノロジーとMyLogic™オペレーティングシステムが開発され、2013年初頭にリリースすることに成功した。
 
我々の旧モデルであるDeltaシリーズとLogicシリーズの設計をベースとしつつ、人間の習性を徹底的に観察・理解することで安全性を最大限に高めることが Inclination™テクノロジーの開発目標となった。カウンターバランス、アンチラッキング、傾斜した前面サッシ、視線の高さにあるデジタルディスプレイ、ADA(障害をもつアメリカ人法/Americans with Disabilities Act)に準拠した制御、コンセント、ユーティリティーなど、様々な視点で細かな構成要素が検討された。
 
安全キャビネットの外部と作業空間にある2つの機器を接続するコード、ケーブル、チューブなどを安全に繋げられるよう、作業者の手が届く範囲に通線孔を設けた。これは接続部分が作業空間内で邪魔にならないようにし、真空ロックシステムによって実験室と安全キャビネットの内部の両方が封じ込め性能を損なわないようにするための機構である。我々はこの機構を“Vacu-Pass™ Cord & Cable Portal”と名づけ、2012年にはその安全性がNSF/ANSI Standard 49に認められ、正式に採用されることとなった。この新たな機構に加え、ステンレス製セルフクローズタイプのコンセントカバーなど、細かな部分にも様々な配慮がなされている。
 
現在、様々な設備や機器は「プラグアンドプレイ(=差し込めば使える)」が主流になっている。この考え方は我々の安全キャビネットPurifier Logic+モデルの設計チームにも取り入れられている。コントローラーの操作性にも細心の注意が払われ、多機能なカラーディスプレイにより直感的に操作することのできる専用のユーザーインターフェースが特別にデザインされた。これにより、安全キャビネットのセットアップ、キャリブレーション、および診断とトラブルシューティングなどもスムーズに行うことができるよう設計されている。
 

さらなる顧客価値体験の向上を目指して

最初のクラスII安全キャビネットは、1960年代にラミナーフロー(層流)技術の発展によって開発された(CDC、2009)。人間工学に基づく快適性の向上はオペレーターの安全に直結する最優先事項であったにも関わらず、業界のメーカーがそれに気づき真剣に考え始めるまでに40年近くを要した。現在、安全キャビネットのデザインはそれぞれのメーカー独自のルック・アンド・フィール(外観と操作性)を持ち、形と機能がどのように調和するかが慎重に検討されている。しかし、ヒューマンファクターと人間工学の調和は一筋縄でいかないことも事実であり、メーカーにはさらなるイノベーションが要求されている。
 
我々LABCONCOの安全キャビネット開発において変わることのない目標、それはヒューマンファクターと人間工学の調和による快適性と安全性の追求である。我々がこの目標を達成するには、既存の安全基準を満たすだけではなく、これからも実際に研究開発・医療などの現場で安全キャビネットを使用するオペレーターの皆様との対話を続け、その声に真摯に向き合うことだと信じている。
 

参照

  • CDC, 2009. Biosafety in Microbiological and Biomedical Laboratories. 5th ed. Washington, D.C.: National Instute of Health.
  • HSE, n.d. Health and Safety Executive: Human Factors Design. [Online] Available at: www.hse.gov.uk/humanfactors [Accessed 22 January 2013].

 
*本記事はLabconco Corporation.による記事を要約したものであり、日本国内での法規・基準などと異なる場合があります。原文はこちらよりご確認ください 

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