クラスII安全キャビネットのエアーフローコントロール

Controlling Airflow in Class II Biosafety Cabinets

by Jim Hunter, Senior Project Engineer, Mark Meinders, Product Manager, and Brian Garrett, Product Specialist, Labconco

はじめに

米国衛生基金(NSF International)による定義では、クラスⅡ安全キャビネットとは、「前面開口部からの流入気流が作業者を保護し、HEPAフィルターでろ過した吹出し空気が試料を保護し、HEPAフィルターで排気空気を清浄化することで、環境を保護する排気装置」(*1)であるとされている。
 
適切な封じ込め性能を維持するため、NSFでは、循環・排気風量、すなわち流入・吹出し風速の基準値との差が、±5 FPM (0.025 m/s)以内であることを規定している。(*2)
HEPAフィルターが詰まってくると、安全キャビネットの適切なエアーフローを維持できなくなる可能性がある。本記事では、HEPAフィルターの負荷に応じて適切なエアーフローを監視および維持するために、さまざまな安全キャビネットメーカーが使用している現在の技術を紹介する。
  

エアーフローの手動コントロール

差圧計の使用

1960年代~70年代に安全キャビネットが開発されたとき、エアーフローを測定および表示するための組み込みの電子技術は非常に高額であった。安全キャビネットが適切に動作していたことを示すために、メーカーの多くはキャビネットに差圧計を搭載した。差圧計は単に2点間の圧力の差を示すものであり、最も一般的に使用されるものは、Dwyer Instruments Incorporatedによって製造された商品名 Magnehelic™である。電子技術と比較して、差圧計は比較的安価で、温度と湿度の変動による影響を受けにくい。
 
ある機種では、差圧計は陽圧のHEPAフィルタープレナムと大気との差圧を表示し、また別の機種では、陰圧の背面プレナムと大気との差圧を表示する。
定期的に表示値が監視されている場合、差圧値の増大は、微粒子によるHEPAフィルターの詰まりを表す指標となる。反対に、値が低下した場合、フィルターまたはブロワーに不具合が生じたことを表す。
 
安全キャビネットの性能を確認するために差圧計を使用することには3つの問題がある。
第一に、安全キャビネットの性能にとって重要な鍵となるのは適切なエアーフローであり、圧力ではない。第二に、差圧計の表示値が大きく変わるには、劇的な変化が必要となるため、フィルターの負荷を示すのに適した指標ではない。最後に、表示値の読み取りは直感的ではない場合があり、ほとんどの差圧計には異常時の警報機能がないため、作業者が危険な状態に曝される恐れがある。
 
差圧計自体の欠点に加えて、安全キャビネットの性能確認が差圧計のみに依存している場合は、表示値が性能の低下を示した際に技術者による手動調整が必要となる。調整を行う技術者は、一時的に安全なエアーフローを確認できるが、フィルター負荷が増えると、時間の経過とともにエアーフローが低下していく。
 

エアーフローの自動コントロール

センサーによるフィードバックループ

1970年代後半から1980年代前半にかけて、性能の向上と電子風速センサーのコスト低下により、安全キャビネットのメーカーにとって、センサーによる自動コントロールが一般的となった。当初は連続的に作業エリアにおける単一箇所の吹出し速度を測定するために、熱線式風速センサー(図1)が使用された。センサー実測値は、フィードバックループを介して、安全キャビネットの速度コントローラーに伝えられる。フィルターの負荷により吹出し風速が低下すると、速度コントローラーは、設定風速値に戻すためにブロワー速度を上げる。この技術の最大の利点はリアルタイムで風速を監視できる点とセンサー実測値を表示できる点にある。さらに、エアーフローの乱れが危険な状態を引き起こした場合、作業者に即座に警告することができる。
 

[図1] センサーによるエアーフローコントロールを行っている機種では、熱線式風速センサーが作業エリアにおける単一箇所の吹出し速度を測定している。

 

 
ただし、この設計には欠点がある。熱線式風速センサーは、電流が流れる小さなワイヤーで構成されており、ワイヤーを通過する空気は、空気の速度に比例してワイヤーを冷却し、結果として生じる温度差は電圧に変換される。この電圧は、電圧を風速として認識するコントローラーに伝えられる。センサーはそれぞれ変化する速度に対して異なる応答をする。したがって、コントローラーは独自のセンサー、または標準出力を伝える補償回路を備えた校正済みセンサーを使用して調整する必要がある。前者の場合、センサーまたは基盤が故障した場合、両方を別のペアと交換する必要がある。 後者の場合、センサー故障時は該当センサーの交換のみが必要となる。どちらの場合でも、交換費用が高額になる可能性があり、技術者により性能確認が再度必要となる。
 
これらのセンサーは温度と湿度の変動に敏感な場合がある。安全キャビネットに温湿度の変動に応じて自動的に実測値を修正するセンサーが装備されていない限り、センサーが温湿度の変化を風速の変化と認識し、警報を誤発報してしまう場合がある。その際、技術者が警報に対処するために、安全キャビネットが使用できない期間が生じてしまう。
 
この技術における最も重大な欠点は、センサーの精度である。安全キャビネットで使用される典型的な熱線式風速センサーの精度は±10%であり、これは大きな誤差を生じさせる。さらに、これらのデザインのほとんどは、吹出し風速または排気風速のいずれか1箇所の風速を監視している。単一箇所で風速を測定する上での欠点は、フィルターに微粒子が詰まってくると、HEPAフィルターを通過するエアーフローパターンが変化する点にある。つまり、単一箇所での測定は、フィルターを通過するエアーフローの全体的な変化を正確に反映しない場合がある。最後に、センサー自体に、経年変化に伴うセンサーの「ドリフト」とエアーフローパターンの変化を補正するための定期的な再校正が必要となる。
 
この設計が最初に導入されたとき、熱線式風速センサーによる自動コントロールは、元々使用されていた手動での速度コントロールと比較すると大きな進歩であった。しかしながらその固有の欠点により、メーカーはHEPAフィルターの負荷に応じて変化するエアーフローを自動的に補正する、より堅牢で信頼できる方法を模索するようになった。
 


Look Back - PSCモーター

最近まで多くの安全キャビネットメーカーは、永久分割コンデンサ(PSC)モーターを使用したファンを採用していた。PSCモーターの速度は、右図に示すように、ライン電圧をオフ/オンにチョップする電子回路によって制御される。モーターがオフになっている時間が長いほど、モーターの運転が遅くなる。この回路に配置された電圧計が電圧の低下を認識する。これは非常にシンプルで堅牢なデザインだが、チョッピング速度コントローラーはライン電圧の変動の影響を受けやすい。1970年代と1980年代には、電圧補償回路を追加して、速度コントローラーの性能を向上させたメーカーもあった。適切に設計されている場合、電圧補償速度コントローラーは一定(チョップされた)のモーター電圧を維持する。しかし電圧補償速度コントローラーは、HEPAフィルターの負荷に応じてモーターを自動調整できない。


自己補正ブロワー

今日使用されている安全キャビネットの多くには、前方に湾曲したファンが付いたブロワーが搭載されている。これらのブロワーはHEPAフィルターの負荷に応じて風量を自己補正する。 HEPAフィルターの負荷が増大し、それらの差圧が増加すると、前方に湾曲したファンが「滑り」始め、駆動輪が氷の表面にぶつかったときに車のエンジン速度が上がるように、モーター速度が上がる。ファンが自己補正する風量はブロワー、モーター、および負荷の増加量に応じて異なる。前方に湾曲したファンにはある程度の風量を自己補正することが可能だが、安全キャビネット内のエアーフローではなく、ファンの滑りに基づいている。これは機械的な機能であり、センサーまたはCAPによるエアーフローの自動コントロールとは無関係である。 ECモーターとPSCモーターの両方に自己補正機能が存在する。
 


センサーを用いないエアーフローコントロール

2007年、Labconco社はセンサーを使用してモーターの速度を監視および自動調整し、フィルターの負荷を補正することに関連する問題を解決した。 Purifier®Logic®の開発における1つの目標は、より効率的なモーター技術を組み込むことだった。
そのために、直流(DC)電子整流モーター(ECM)を、従来の交流(AC)永久分割コンデンサー(PSC)モーターに代わって導入した。ECモーター(図2)は、従来のPSCモーターに比べて多くの利点がある。その性能効率により、50%以上のエネルギー節約を可能にし、その堅牢性により、PSCモーターより約3倍長い製品寿命を実現した。ECモーターは放熱が少なく、室内の温度の上昇というリスクを最小化し、快適な作業環境を提供する。
マイクロプロセッサーのセンシングとモーターの速度とトルクのコントロールにより、HEPAフィルターの負荷が増えても一定の風量を維持するようにモーターをプログラミングすることが可能となった。
 
 

[図2] ECモーター

 

 

Constant Airflow Profile (CAP)テクノロジー

安全キャビネットのモーター/ブロワーが一定風量を送風するように設定する手法を、Constant Airflow Profile (CAP)と称している。
ECモーターをプログラムして一定風量を維持するため、さまざまな異なるエアーフローとHEPAフィルターでの差圧における各サイズの安全キャビネットの速度とトルク要件を記録した。
トルク、速度、およびエアーフローデータはRegal-Beloit社提供のソフトウェアによって処理することにより、独自のモーター/ブロワー定数を生成する。
 
この特許申請中のCAPテクノロジーによって、従来のエアーフローコントロールの問題点を解決した。上で記載したように、従来の熱線式風速センサーには定期的な校正が必要であった。CAPテクノロジーにおいては、再校正または交換するセンサーは存在しない。したがって、性能を維持するためのメンテナンスと機器の交換コストは必要ではなくなった。さらに、その堅牢性により、熱線式風速センサーによるシステムを悩ます温度と湿度の変動の影響を受けない。
 
ECモーターの最も有益な利点は、その精度であると考えられる。Labconco社で実施した試験にて、HEPAフィルターの負荷が増えても、風速は1-2%の誤差内で維持できることが確認されている。
 

 


[図3] 右図はECモーターが一定風量を維持する仕組みを表している。一定風量曲線は、安全キャビネットが一定の風量(800CFM)を維持するために必要なモーターのトルクと速度を示している。この曲線は、解析・測定のプロセスで生み出される一連の定数としてモーターにプログラムされている。緑色の曲線は、安全キャビネットに使用される新品のフィルターの圧力を表している。HEPAフィルターが物質を捕集するにつれて、圧力は青い曲線に近づいていく。安全キャビネットは、フィルターが目詰まりするまで、点「A」で安定して動作する。目詰まりが進行するにつれて、圧力の増加および風量が減少した結果、ブロワーの速度は点「B」まで上昇する。このスピードの上昇は、あらゆるタイプのモーターで発生し、氷上やスリップで牽引力を失う自動車のタイヤに似ている。
点「B」にモーター速度を留めるPSCモーターと異なり、ECモーターは自身の速度と回転力を確認する。点「B」 は一定風量曲線上にないため、赤線上に到達するまでトルクと速度を点「C」、「D」および最終的に「E」に増加させる。


[図4] 右図は、NSF Internationalが実施したCAPテクノロジーを搭載したクラスIIタイプA2の安全キャビネット”Logic”とPSCモーターを搭載した安全キャビネットを使用した試験結果である。モーター/ブロワー性能試験でANSI/NSF 49で定義されているように、新品の安全キャビネットのブロワーにおける総排気量が測定される。その後、装置の前面グリルを制限し、HEPAフィルターに+50%の負荷がかかったケースをシミュレートする。総排気量を再度測定し、初期値と比較する。右図では、CAPテクノロジーを搭載した”Logic”では、総排気量が784CFMから778 CFMになり、0.7%減少した(赤い線で表示)。PSCモーターを搭載したものでは、約60 CFM、つまり8%の減少が確認された(青い破線で表示)。これらの結果は、”Logic”が、PSC搭載の安全キャビネットと比較して、10倍以上の精度で風量を維持できることを示している。


 

結論

 

安全キャビネットにおいて一定の風量を維持するために、過去40年間で大きな進歩があった。まずセンサーによるコントロールシステムが、シンプルなチョッパ回路と差圧計を用いたシステムに取って代わった。その後、今度はHEPAフィルターの負荷が増えても正確な風量を維持できる(図5)センサーレスのマイクロプロセッサモーターが、センサーによるコントロールシステムに取って代わった。CAPテクノロジーには、PSCモーターの10倍以上の精度・信頼性、および風速センサーの再校正の必要がない、という利点がある。
 

[図5] 安全キャビネットのエアーフローコントロール方式の比較 

本図は、執筆時点で利用可能な安全キャビネットで使用されている3種類のエアーフローコントロールメカニズムをまとめたものである。

 
  差圧計 センサーによる
フィードバックループ
CAPテクノロジー
風速の自動調整 なし あり あり
風速コントロールの精度 不可 ±10% ±2%
風速センサーのメンテナンス・交換コスト ¥¥¥ 0
温湿度変動による影響 なし

起こりうる

なし
警報表示 なし

あり

あり

 

参照

  1. NSF International, “NSF/ANSI 49 - 2009: Biosafety Cabinetry: Design, Construction, Performance, and Field Certifi cation.” 2009, p. 5.
  2. Ibid., p. 28.

 

一般参照 

  • American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers (ASHRAE). “Use of electronically commutated motors (ECMs) in air terminal units.” January 2007.
  • ECM 2.3 Technical Presentation. General Electric Corporation 2000.
  • GE ECM by Regal-Beloit. Powerpoint Presentation. Dr. Roger Becerra, Tim Neal. Regal-Beloit Corporation, Terra Haute, IN.
  • Guckelberger, D. and Bradley, B. “Setting a New Standard for Effi ciency: Brushless DC Motors.” Trane Engineers Newsletter volume 33-4. 2004.
  • Hauer, Armin 2001. “EC Systems as Fan Drives.” AMCA International’s Supplement to ASHRAE Journal 43(11):28-30.
  • How the GE ECMTM Makes Airfl ow Constant. Powerpoint Presentation. General Electric Corporation 2000.
  • Int-Hout, Dan, Chief Engineer, Krueger Corporation White Paper. “ECM Motors in Fan Powered Terminal Units.”
  • NSF International Standard/American National Standard NSF/ANSI 49 - 2008: Biosafety Cabinetry: Design, Construction, Performance, and Field Certifi cation. Ann Arbor, Michigan, 2008.

 
*本記事はLabconco Corporation.による記事を要約したものであり、日本国内での法規・基準などと異なる場合があります。原文はこちらよりご確認ください

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